イベント実施のご報告:社内起業家セミナー #3: 既存事業から『染み出す』領域の取り組み

2024年12月5日(木)に「社内起業家セミナー #3: 既存事業から『染み出す』領域の取り組み」を実施いたしましたので、ご報告いたします。

現在、多くの企業では、『新規事業の創出』が経営上の課題となっています。専門部署の設立、社内起業提案制度等の社内等を実施して「飛び地」での事業立ち上げが急ピッチで進む一方で、既存の事業領域や技術アセットを活用した関連領域、周辺領域へ『染み出す』領域への進出も同時に進められています(こちらの方が、本命?)。

本セミナーでは、実際に、大手企業で新領域への進出に取り組んでいる三井化学株式会社 山崎氏、株式会社日立製作所 安達氏をゲストに迎え、アイディアの発想から、どのように『染み出し』ながら事業を拡大しているのか、どんな経験をされているかお話をお伺いしました。

はじめに、当協会代表理事の岩田より、本イベントの趣旨と進行の説明をさせていただきました。その後、山崎氏、安達氏より「それぞれの新領域開拓ストーリー」をテーマにお話いただき、その後、「自社技術 / アセットを中心とした『染み出す』分野のおもしろさ、大変さ」についてパネルディスカッション形式で、当日、参加者様よりいただいたご質問も交えながら、対談をいたしました。

下記に、本イベントのサマリーをご報告いたします。


自己紹介 & それぞれの新領域開拓ストーリー

《スピーカー:山崎 聡 氏 (三井化学株式会社)》

  • 山崎氏のキャリアと実績
    • 研究開発畑出身、「化学のちから」で新製品の社会実装に貢献。投資会社にも在籍し、社外取締役の経験あり。証券外務員の資格を取得し、スタートアップ企業の資金調達も経験。
    • 自動車の軽量化に貢献するポリウレタン製シートクッションに使われる新原料、伸縮する不織布や黄色くならず、弾性が高いスポーツ部材およびバイオマス原料を活用したコーティング材、接着剤、視力矯正用メガネレンズなどの新規なポリウレタンの社会実装化に貢献。新規な分子設計、製品の着手から上市まで約10年要してきた。
    • ここ数年は、創薬、個別化医療および再生医療に関わる細胞培養領域における次世代のバイオプロセス部材の新事業化に注力。
    • 国立大学での客員教授やISO/TC61の国際議長職を経験。
  • 研究・開発の考え方
    • 自身の経験から、化学研究者には、用途から遡り、分子構造を直感的に捉えて、デザインする能力が必要。
    • 新製品の開発コンセプトは、化学を知らない方にもわかりやすく、シンプルに言語化することが大切。特に、「相反する要素を両立させる」視点が不可欠。
    • その言葉は、顧客のニーズを的確に捉え、競争優位性を明確にすることができるようなものでないといけない。コンセプトメーキングは難しいが、開発の拠りどころになるので、非常に重要。

  • 新製品・新事業のポイント
    • 客観性を持った多様な意見を取り入れ、継続的なビジネスに繋がる製品を開発する。
    • グローバルな事業展開を意識し、国ごとの文化やジェンダー視点を十分に考慮する。
    • 社内外の関係者を巻き込みながら、新たな価値を創出す。目的を明確にし、社内外のステークホルダーと共創しながら、価値ある製品を生み出していくことが重要。

《スピーカー:安達 尚郎 氏 (株式会社日立製作所)》

  • 安達氏のキャリアと経験
    • 鉄道ビジネスユニット(価値創造部・メンテナンス事業推進部)に所属。
    • 2005年頃、ICカードシステム関連の開発
    • 2016年以降は新規事業の開拓に着手
    • 2019~2021年はアメリカ赴任し、新しい事業の創生に取り組む
    • 現在は、鉄道事業のデジタル分野における新たな価値創造に従事。

  • 鉄道事業について
    • 鉄道は、車両だけではなくシステム、さらにその周辺のサービスまでビジネスとしては範囲がより大きくなっている。
    • ユーザーからはわかりにくいが様々なイノベーションが起きている分野
    • 一方で、安全安心、確実なオペレーションが求められるため、社内を含む関連業界の人は極めて保守的。

  • 新企業開拓の成功のポイント
    • 環境に恵まれること : 上司や仲間の支援、会社のサポートが大切。タイミングや運も重要な要素。
    • 既存事業の進化とデータ活用 : 既存の強みを活かし、新しい価値を生み出す
    • 自分の仕事のスタイルを確立 : 「自分の長所を仕事に活かせているか」を意識
    • 観察と学び : 社会の変化を敏感に捉え、未来を予測する
    • 成功体験の積み重ね : 自分のアイディアが形になり、成果を出すことが最大の喜び。

  • AI時代の事業創生の変化
    • 人の想像にテクノロジーがついてこない世界から、テクノロジーの進化に人の想像がついていけない世界へ。あるべき未来はAIが全て想像してしまう時代。
    • AI時代に必要とされる2つの事業創生力は、構想力と実現力。

パネルディスカッション(という名のぶっちゃけトーク) – 自社技術 / アセットを中心とした『染み出す』分野のおもしろさ、大変さ

  • 新規事業と技術戦略
    • 技術者が戦略策定において技術だけでなく、サプライチェーンや製造現場などのアセットを融合する必要性について議論。特に新規事業の成功には、社内外のバランスを取り、小さな成功を積み重ねることが重要とされる。
    • 新規事業の成功には、競合に対する持続的な差別化が必要であり、マネタイズまでの時間が長いことが課題。
    • 新規事業においては、本人が心から『実現したい』という気持ちを持つことが重要であり、社内外の人を巻き込む力が求められる。
    • 自分の長所を活かし、意図的に他者を巻き込むことで新事業を推進することが重要。
  • 新事業開発とリーダーシップ
    • 新事業開発において、コンセプトの精緻化と質の向上が重要である。量をこなすことで質が向上し、失敗から学ぶことが大切。リーダーシップとチームビルディングが成功の鍵となる。
    • 新規事業の立ち上げには、リソースの確保と未来への投資が重要。赤字を想定し、コスト管理を徹底することが求められる。失敗を学びのプロセスと捉え、成長を続けることが大切。
    • 新事業を成功させるためには、自分の思いを形にするフィールドとして会社を活用することが重要。考える癖をつけ、周囲を観察し、未来を想像することが成功への鍵となる。

自社技術 / アセットを中心とした『染み出す』分野での新しい取り組みならではのメリット、やりがいなどがよく理解できる内容でした。多くの企業で『飛び地』、『これまでにない』事業の創出を検討される一方で、既存事業の周辺から関連する分野の取り組みも重要な取り組みのひとつではないでしょうか。この観点から各社様の参考になれば幸いです。
山崎さん、安達さん、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!

今後とも継続的にセミナーを実施していきますので、ご興味のある方は、ぜひ、ご参加ください。

本記事に関するご質問やコメント、疑問に感じた点がございましたら、ぜひ、お問い合わせフォームよりご連絡ください。最後までお読みいただきありがとうございました。

一般社団法人日本イノベーション協
事務局
高橋佑季

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